「ナンセンス読み物」とは、まさにその通りで、冗談で書いたものです。
まあ肩の力を抜いて、お気軽にお読み下さい。なお、作品中に登場する固有名詞等は
実在のモノとは一切関係ありません。当たり前です。
なお、この作品は「雲丹」9号に掲載されたものに若干の修正を加えています。
第4問
次の文章を読んで後の問いに答えよ。(50点)
コスチューム・プレイ(以下コスプレ)とは一体何か。世人の眼か
ら見れば、いわゆる「オタク文化」の極みと言われるだろうし、一方
では究極の自己トウスイという評もある。
(a)───
バーチャル・リアリティーが日常語として使われるようになった昨
今、コスプレは一種の現実世界に現出されたバーチャル=仮想空間で
あると言えよう。ごひいきのキャラクターと心身ともに同一化するこ
とで、内面世界を外界へ発散させる。言い換えれば、自分の周りに仮
(1)────────────
想化された空間作ることで、内面世界と外界とのギャップを限りなく
ゼロに近づけようとしているのだ。
ベネディクトがいみじくも述べた「恥の文化」の国にあって、ユー
(2)────
ス・カルチャーの一部分とはいえ、一見それとは相容れない文化が発
(3)────
生したことは、非常に興味深い。一方で、「スチューデント・アパシ
ー」「四無主義」に代表される、現代のモラトリアム人間の特徴が著
しく発現した例であっても、果たして完全にそうと言い切れるかどう
かは疑問である。
産業革命以来の近代の合理的世界観にあって、人間はあらゆる方法
を尽くして、ロゴスでの物事の表現に努めてきた。逆にパトス的なも
のは非合理的なものと見なされ、歓迎される風潮ではない。だが、コ
スプレはパトスの表れと見ることはできないだろうか。即ち、記号と
してのアニメ等の捉え方として、ロゴスを以て、つまり理性で見るの
ではなく、パトスを以て、自らをその捉え方の記号として、感じたま
まを表現する。逆説的ではあっても、記号というロゴスで形成された
(4)──
世界を、パトスという新たな記号の導入によって自分の受け取った通
りに再構成する。それがコスプレである。
即ち、彼らの世界は一見ヘイソクしているように見えて、実は大き
(b)───
く開かれているのである。それは現実世界との接点であり、パトスと
ロゴスとを結ぶ回廊なのである。アービター・エレガンシアルムなら
ば別の結論を出すだろうが、彼らにとってのリビドーとは内向的であ
ると同時に外向的である。キャラクターという一個の完結した人格に
入り込むことで、自我という軛から解き放たれ、外面から自我を観察
(c)─
することが可能になる。また、他の同趣味人との接触は、コミュニケ
ーション本来の意義からして、決してマイナスにはならないだろう。
しかし、それは同時に自我の拡散でもある。人為的に完成された人
格と、極めて不明分な自我との狭間にマイボツし、同一性の危機、ひ
(d)───
いては人格の分裂・多重化を引き起こしてしまう。
コスプレがユングの言う元型の発現であることに否定の余地はない
が、エリクソンが指摘したような自我の役割と自律性を与える上で、
同一性の形成にヘイガイがあることは認めざるを得ない。だが、横並
(e)───
びが奨励され、没個性的な現代において、モラトリアム人間たちの自
己主張の手段であるならば、多少の留保を残しつつも、社会的に認め
(5)──────────
てもよい段階に来ているのではないか。
(ガルゴン.S著 「アニメ文化の意義と今後」より抜粋)
註:アービター・エレガンシアルム……趣味の審判者
問一 傍線部(a)〜(e)のカタカナを漢字に直し、漢字はひらがなで
読みを書け。
問二 傍線部(1)について、
どういう意味か。簡潔に説明せよ。
問三 傍線部(2)について、
(ア)一般に、「恥の文化」と対比される言葉を答えよ。
(イ)「恥」を使ったことわざ・慣用句を一つ書き、どういう
場面で使われるか、具体例を挙げよ。
問四 傍線部(3)について、
何故「相容れない」のか。具体例を挙げて簡潔に説明せよ。
問五 傍線部(4)について、
何故「逆説的」なのか。簡潔に説明せよ。
問六 傍線部(5)について、
何故か。本文の趣旨に則して簡潔に説明せよ。
問七 この文章で筆者が言いたかったことは何か。
もっとも近いものを以下より選べ。
(あ)オタクのいる世界には普通の人は関わらない方がいい。
(い)オタクのアイデンティティは自他不明分の境界線上にある。
(う)オタクは自分の殻に閉じこもるから嫌いだ。
(え)コスプレは個人の自由だから勝手にすればいい。
(お)コスプレを認めることが若者の社会参加を促すことにつながる。
問八 本文を踏まえつつ、「オタクの文化」について考えるところ
を記せ。
平成X年度 笠張文化大学 形而上文化研究学科 入学試験問題より。
(総合問題・4題180分200点)
解答欄省略。
なお、この作品は「笠張文化大学」第3号に掲載されたものに若干の修正を加えています。
「汎用多媒体個人用卓上電子計算機取扱説明書 日本語版」
本日は弊社の汎用多媒体個人用卓上電子計算機「轟天力」をお買
い上げ頂き、誠に有り難うございます。
ご使用につきましては、本書を熟読のうえご使用になられますよ
う、お願い致します。
なお、本取扱説明書においてなされている取扱方法に反してお取
扱いになった場合に発生した問題・障害等につきましては、弊社は
一切その責を負わないことを、予め申し上げます。
1.汎用多媒体個人用卓上電子計算機「轟天力」の特徴
本製品は、これからの多媒体・汎世界的大規模通信網時代に向け
て、あらゆる面で最高性能の拡張を施した最強の汎用多媒体個人用
卓上電子計算機です。以下にこの「轟天力」の主な特徴を列挙しま
す。
<注意>
以上に掲載した「轟天力」各種性能は、本取扱説明書執筆時に
おけるものです。従って、性能向上・本体価格値下げなどを目的
として予告なく変更される場合があります。
2.起動方法
起動するときは、必ず以下の方法に従って下さい。
以下の方法以外で起動した場合に発生するいかなる障害にも、
弊社は一切責任を負いません。
ちゃんと起動しましたか? 簡単でしょう?
3.使用方法
起動後、「ようこそ轟天力へ」の表示が消えると、画面に窓が開
きます。この窓は硝子ではありませんので、叩いても割れません。
非常に安全な設計になっておりますので、安心して叩いて下さい。
正しく叩くと、「導入補助」項目が現れます。それを叩いて下さ
い。色々な使い方を見ることができます。
この「轟天力」には全部で1677万7216個もの膨大な数の
命令処理群が事前導入されています。必ず全部見てください。見な
いと怒られます。
さあ、これであなたも立派な「轟天力」使いです。師範目指して
1日16回起動しましょう。起動しないと呪われます。
4.警告
本取扱説明書は正規に弊社汎用多媒体個人用卓上電子計算機
「轟天力」を購入された方のみに読権があります。従って、中古
品または取扱説明書無し余剰品を購入された方は、弊社の清掃部
粗悪品処理課で扱っている専用の取扱説明書をご購入下さい。さ
もないと目が潰れます。なお、取扱説明書の有無に関わらず、中
古品・余剰品の購入者には一切の保護・援助は行いませんので、
ご了承下さい。
詳しい情報は弊社苦情等集中処理課まで、電報でお問い合わせ
下さい。
5.注意
本取扱説明書には「海外為替及び外国貿易管理法」に基づく特定
技術が含まれています。従って本取扱説明書またはその一部を輸出
する場合は、同法に基づく許可が必要とされます。
株式会社 明和電気機器製造
図書館は絶好の告白場所である。
これが私の35年の研究の果てにようやく見出すことの出来た人
類普遍の法則である。遙か1万年前にまで逆上ることの出来る、こ
れは絶対の真理なのである。
人類の祖先たちが、いかにして図書館告白を行うようになったか
という経過については、私が先年出版した「書架越しの愛情−愛す
べき先祖たち」内の記述に譲るとして、心理学的側面からのアプロ
ーチを試みてみたい。
なお、参考資料として、六月に出版した私の「本たちの見守る中
で」、及び津金先生の「日本−閉鎖と開放の間髪的交錯の奇跡」を
併読されるとより理解が深まると思われる。
閉鎖と開放。これが図書館のキーワードである。無数の書架に囲
まれた或る一個の空間は、一見閉鎖空間であり、その感に大きな誤
りは皆無である。と同時にそれは完全な閉鎖空間ではなく明らかな
開放空間のごく一部分としての空間に過ぎないもの事実である。こ
のどちらでもあり、どちらでもない、図書館の、正確には図書館の
或る一部分の曖昧性、両属性が、図書館告白という人類の至宝を生
み出すに至ったのである。
人間の行動心理学のごく初歩として、恥辱及び恥辱を伴うと予想
される行為については、閉鎖空間内での行為を必ずと言っていいほ
ど希求する。この点は速見氏の「信号待ちのプロポーズ」が詳しい。
まあ、普通に考えても衆人監視下で恥ずかしいことはしたくないの
は当然である。告白が実際「恥ずかしい」かどうかの検証は私の
「外道のスゝメ」や「代筆されたラブレター」を参照して頂くとし
て、そこはそれ、当然恥ずかしい訳だから、心理的に閉鎖空間での
告白を望むのは、帰結としては自然である。
問題は、相手である。
今まで断らなかったが、この論は男性の立場で記述させて頂く。
私が男性である以上仕方がないことである。女性の立場での告白心
理論では、図書館告白については言及されていないものの、雌雄同
体で幼少期を男として過ごし、12歳で女性になったN女史の「わ
たしたちの旅路」がよく書けている。そういえば、
「図書館は本を読む場所で、告白する場所ではありません」
とN女史の友人の「図書室の住人」ことFe女史からお叱りを受
けたが、これは心理学の純粋な研究であるので、ご容赦を願いたい
ところだ。
そう、問題は相手である。
女性一般の心理として、よほど心を許した相手以外、男性と2人
だけで閉鎖空間にいようとは思わないはずである。私が実験したの
だから間違いない。この苦闘については「全治三ヶ月、執行猶予半
年」を読んで頂こう。ともかく、告白される側としては、そう簡単
に閉鎖空間へと入って行きはしないのである。
そこで図書館である。
つまり、告白される側としては閉鎖空間でないことに安心し、こ
ちらの誘いに乗ってくれる訳である。「放課後に体育倉庫」より
「放課後に図書館」の方が遙かに安全である。
そして、告白する側である。図書館は完全な閉鎖空間ではないと
はいえ、完全な開放空間ではないことも事実である。書架の奥なら
ば人はいない。擬似的な閉鎖空間なのである。つまり、全くではな
いにせよ、周りの視線を気にする必要はない。狭い書架と書架の間
である。曲がりなりにも2人だけの空間であることには相違ないの
である。告白には過不足の無い環境である。
と同時に、完全な閉鎖空間でないことが、心理的抑制を生むので
ある。私はこれをライブラリ効果と名付けたが、つまり、完全な閉
鎖空間であれば、
好きです−ごめんなさい−こうなりゃ力ずくでも−きゃー
という反理性的暴力主義的腐敗的女性蔑視主義思想的行動を生み
出しかねないのである。
が、図書館である。閉鎖空間は擬似的であり、一声上げれば何事
かと人が来る。人がいないという可能性もあるが、人がいなければ
相手は警戒して入ってはこないだろう。だから心理的抑制が働く。
ライブラリ効果である。
好きです−ごめんなさい−こうなりゃ力ずくでも−いや待て人がいる
なんと健全であろうか。
つまり、図書館告白とは互いの利益の最大公約数的な線上にある
だけでなく、互いの安全保障の面でも、極めて堅固なセキュリティ
ーを備えていると言わざるを得ない。男−閉鎖空間、女−開放空間
という双方の要求を完全に満たし、かつ双方に安全を提供する、こ
の素晴らしき図書館告白にこそ、人類の福音たりえるものがあるの
ではなかろうか。さすがは、我ら人類が1万年ものあいだ脈々と受
け継いできただけのことはある。
もっとも敢えてデメリットを挙げるならば、よくいる情報屋、つ
まりあちこちから噂を集めて尾鰭を付けて垂れ流す連中に察知され
易いということだ。完全な閉鎖空間ではないので、他者の侵入を許
してしまうのは仕方がない。また、書架に置かれた無数の書籍が目
隠しと防音材の役目をして、気配を掴みづらいのである。現場を押
さえられてしまっては、弁解のしようもない。くれぐれも気をつけ
て欲しいところである。
しかし、このデメリットを補ってなお余りあるのが、図書館告白
なのである。
告白に熱あれ。
図書館に光あれ。
全国の男性諸君よ、図書館で告白せよ。
みなさん、こんにちは。
毎回、楽しいテーマでお送りしていますが、今日は「ブラックホ
ールの作り方」と題して、みなさんに簡単なブラックホールの作り
方をご紹介します。メモのご用意はよろしいですか?
さて、一口にブラックホールと言っても色々な種類があります。
ブラックホールは大きく分けると4つの種類があるんです。こちら
をご覧下さいね。えーと、まず、電荷がなくて自転もしていないブ
ラックホールです。一番わけが分からないブラックホールですね。
シュワルツシルト・ブラックホールといいます。電荷というのは、
要するに電気を帯びているということで、+か−かの電気を持って
いるということです。両方は持つことはできません。欲張りはバッ
テンですよ。電荷がないというのは、電気を持っていないというこ
とですね。次は、電荷はないのですが自転をしているブラックホー
ルです。その下は今度は自転はしていないのですが電荷を持ってい
るブラックホールです。電気ウナギみたなものですね。で、最後が
自転と電荷両方ある奴です。これをカー=ニューマン・ブラックホ
ールと呼んでいます。
今回作るは、最後のカー=ニューマン・ブラックホールです。一
番簡単ですので、お手軽に作ることができます。
実は、ブラックホールというのは自然にできることもあるんです。
大きな星が燃え尽きて自分の重さを支えきれなくなった時に重力崩
壊が起きてブラックホールができるのですが、そんな手間のかかる
ことはご家庭では出来ませんので、今日は簡単でお手軽なブラック
ホールを作ります。マイクロブラックホールというものですね。
まず、手頃な空間を用意してください。次元は自由ですが、なる
べく3次元の空間がいいでしょう。もし冷蔵庫に「時間」が入って
ましたら、それも一緒に準備してください。なくても別に構いませ
ん。えーと、次元が多い方、例えば5次元とか10次元の空間を用
意された方は、その次元の空間が10の−36乗に折り畳まれるこ
とがありますので、取り扱いには注意してくださいね。ひもで縛っ
ておくといいでしょう。
さて、空間が用意できましたら、その空間を思いっきり圧縮して
ください。全身全霊の力を込めて圧縮してください。圧縮の仕方が
不完全ですときれいなブラックホールができません。なお、注意し
ていただきたいのは、この時に物質を圧縮してはいけないというこ
とです。物質を圧縮してもブラックホールは出来るのですが、ご家
庭の設備ではブラックホールまでいかず、ただの縮退物質になって
しまいます。とっても高密度で、足の上に落とされると大変ですの
で、くれぐれも物質を圧縮しないでください。必ず空間を圧縮して
ください。
時間を用意された方は、圧縮しながら時間を観察してますと、と
ても面白いものが見えますので、是非ご覧下さいね。
正しく空間を圧縮されますと、空間に特異点が現れます。この特
異点を中心とするシュワルツシルト半径の範囲内がブラックホール
になります。このブラックホールはとても扱いやすいカー=ニュー
マンブラックホールですので、保存がとても簡単です。また、放っ
ておくと自然に消えますので、処分に困ることもありません。どう
しても長持ちさせたい方は、絶対零度で凍結させてください。運動
が停止しますので、永久に保存できます。常温で凍結させますと非
常に不安定になりますので、凍結の際には、なるべく絶対零度でお
願いします。
このブラックホールは特異点がむき出しですので、物質を送り込
むと静止質量の70%くらいのエネルギーは簡単に取り出せます。
上手な人ですとほぼ100%のエネルギーを取り出せますので、ご
家族で挑戦してみてください。ご家庭の電気料金の節約にもなりま
す。ただし、アクリーションディスクから取り出す必要があります
ので、専用の道具をご用意下さい。危険ですので、くれぐれも直接
お手を突っ込んだりしないでください。
さて、今日はブラックホールの作り方をご紹介しましたが、いか
がでしたでしょうか。ご家庭でも簡単にできますので、ぜひ試して
みてください。お子様のおやつにぴったりですね。
それでは、みなさん、また来週お会いしましょう。
来週はお子様にも簡単にできる「永久機関の作り方」をご紹介し
ます。お楽しみに!
ナンセンス読み物8
「フィネガンズ ゥACHE!」
せん走、エヴァとアダム零吠廷を木彡、食う寝る遊ばから彎巨躯
する腕へ、広もん痔失せぬ唄恒通り、永地四囲善いたるゼウス城と
園衆縁へ会期せん。
喪の語りは緋との逸生と塵累の暦屍をダブリリンスの一家の喩眼
に仮唆ね亞話せてい流。この気体の迷錯のパロディを繕うとは復苦
の難産す児して、兇気の詐詫ではあるも、会巣慧富論のタメである
ので、畏れ大飯言葉かりながら、ここに、このように誇大盲掻これ
なるべしと来んとす。
素も恵洲重歩とは、科学が加速的に規則正しく競うように機構を
思考することで以降の位相を仮想することと思想する。単純に科学
技術の述画に擬耽順臥すべくものではな過労。
かワインシュタインの狩ってる鴎のかしまし奏で、
クックックックォーク!
とあっぷあっぷとっぷぼとむと溺れちゃー無駄。うん、すっとレ
ンジで温めよう。猫が死んじゃったらもう量子ようもない。ボーア
っとしてちゃ、ハ(いざ)ンバークも不覚、訂正します。髪の毛薄
くて、滑って転んでコテン、ハーゲ。解釈守礼で、委員がのら猫で
嗜好実験。
そろそろ読む(取るに)人も憑かれてきただろうから、ヤンなる
前に終わらせますね。彼の速攻を見ったー?参ったー。余りに労、
癒えんたる矜持、ライン川に春と想いバラは庵ね?を彩る、この詩
帝、沈黙を愛せん、なっはなっはと笑う。あっとんボロ出す百合は
暗に咲く。きゃっ、ゼーレね、思わずかりんときて、馬頭勝っつ。
お疲れでしょう、風呂いらん?
と、母の語りは同道巡りのえいえんなのthe
解説
「せん走」
川走であり戦争であり旋走である。すべて原作のメインテーマ。
他に蝉噪や先走など複数多数の解釈を導くため、あえてカナで書
いた。原文は小文字で始まっているため、かなで書いてみた。
原文はOEDに用例が1例だけ載っているriverrunという単語。
「エヴァとアダム」
無論、最初の人間であり最初の女と男であり人類補完の要。原初
と堕落、終末と再生のモチーフとして筆者は認識している。原文
でも女性優位であるが、筆者は高校時代好きだった女性にフェミ
ニストと言われたことがあったので、敢えて女性を先に出した。
「零吠廷」(れいはいてい)
エヴァとアダムは知恵の実を食べるまで零知零能であった。その
意を零に込めている。吠はジョイスの作品(特に「ユリシーズ」)
では犬が重要な役割を負っているので、それを想起させるよう試
みた。廷は政治の場であり、裁判の場であり、人類の活動の中心
を意味する。また全体で礼拝亭という訳文の音を残している。か
つユリシーズや本作でも言及されている競馬に対して、競艇での
覇者(零敗艇)を想起させて、同時にギャンブルにも言及しよう
としている。
「木彡」
「すぎ」であるが、ただの杉ではつまらないので横に引き伸ばし
てみた。無論、木が風に揺れる様を表現しており、自然のあるべ
き姿を述べている。通常のベタテキストでは倍角などはできない
ので、重宝することもある。応用例として走召とか木亥とか火暴
がある(字のジャンルが偏ってないか?)。
「食う寝る遊ばから」
訳文では「食寝うる岸辺から」だが、訳文の音を残しつつより人
類の三大活動をはっきり入れている。「遊ばから」は、ギャンブ
ルの意味を強く出すため「バカラ」を入れている。全体のニュア
ンスとしては、川がくねくねと曲がる様を表していて、それが女
性の持つ柔らかいラインを想起させる。実際、川は本作品の中で
は、主人公の女性原理の姿であるAPLとして頻繁に登場する。
「彎巨躯する腕」(わんきょくするわん)
湾曲の湾の異字の彎を使うことで、複雑な海岸線が表現されてい
る。巨躯というのは、言うまでもなく世界の主だった巨人族への
言及である。腕は彼らの巨大な腕(かいな)に世界が抱かれてい
るイメージであり、かつ腕で囲む形から本来の湾の姿を連想させ
る。また、前項と同じく曲線的描写を入れることで女性に言及し、
同時に地母神を連想させる。
「広もん痔失せぬ」(こうもんぢうせぬ)
音で読めば少々品がない表現だが、原文にも一見品のない表現は
無数に登場するので、ソフトな方だろう。人類の悩みのひとつを
入れてみた。訳文では「広も路失せぬ」で、英語のcommodious
(広くて便利な)とローマ皇帝commodusの名が入っていてる。筆
者の場合、広もん(黄門)で、後の唄恒や会期と合わせて、同じ
ことの繰り返しのニュアンスを入れている。
「唄恒通り」(ばいこうどおり)
原文に登場する、ダブリン湾沿いに走るヴァイコウ通りと、歴史
は繰り返すと主張した18世紀のジャンバティスタ・ヴィーコの
名を入れ、また、唄が恒常的に流れるというリフレインの状態か
ら、循環を匂わせようとしている。
「永地四囲善いたるゼウス城」(えいちしいいいたるぜうすじょう)
「永地四囲善い」は男性原理の主人公であるHCE(Here
Comes
Everybody)の音訳で、ダブリンの地誌と、囲まれた永遠の良い土
地という人類永遠の願望を無理に重ねた。訳文ではもっと上手い。
ゼウス城は原文ではホウス城で、ダブリンのホウス岬に建つ古城
であり、競馬の馬の音もあり、「包皮」たる男性器への言及でも
ある。筆者はそこにもっとも人間臭い神であるゼウスを重ねてみ
た。無論原文ではHとCとEが入っている。Howth
Castle and
Environsで、最後の語は次項に掲げる。
「園衆縁」(そのしゅうえん)
園はエデンの園でありヴァルハラでありオリンポスでありバビロ
ンであって、理想境の代名詞である。衆縁は、人がお互いのつな
がりによって人間という存在になっているという究極の原理を表
し、同時に周縁を意味して、訳文にも入っている。Environsの訳。
訳文はここでセンテンスを終わらせているが、さらに最後に会期
を入れることで、より循環のイメージと筆者の思いを入れようと
した。代わりに終焉の響きが薄くなってしまったが…。
「会期せん」
回帰であり、人と人との出会いである。回帰することで、川の水
は海から蒸発し、雨となってまた川となって流れる(川の流れが
女性原理であることは前述の通り)。また、エヴァとアダムから
始まる人類の歴史は、ローマ時代を経て18世紀、そして現代へ
と至るが、その中身は同じことの繰り返しである、とも言える。
その中で人は無数の出会いを繰り返し、生を形作ってきたと、筆
者には思えるのだ。この一節は、上記の他に、ダブリン市内を流
れるリフィー川を中心としたダブリンの地誌にもなっているし、
くねくねとした川に連想する女性とホウス岬に象徴される男性の
交わりの営みともとれる。
訳文では「そのしゅうえん」で終わっているが、この言葉を入れ
てよりテーマを明確にしてみた。訳文の「そのしゅうえん」もそ
うだが、この語も50音最後の「ん」で終わらせている。これに
よって終焉への回帰をイメージしてみた。もちろん「ん」で脚韻
を踏んでいる。ダブリンの一夜の夢と人類の循環する歴史は、こ
こに始まり、ここに終わる。つまり、実質的にはここが結末なの
である。
ここまでは訳文をベースに手を入れたもの。
「喪の語り」(ものがたり)
無論、物語なのだが、ウェイクがアイルランドにおける通夜の意
味もあるので、それを織り込んでみた。
「緋との逸生」(ひとのいっしょう)
緋は赤であり、人の体内を流れる赤い血である。また、アダムは
赤い土から作られていることも重ねている。逸生だが、人生はそ
れぞれ、他の人には真似出来ない、それなりに優れたものである
と思うので、逸生とした。
「塵累の暦屍」(じんるいのれきし)
悠久の時の流れから見れば、人の存在などゴミでしかないのだろ
うが、塵も積もれば山となる。時の中で累々と積み重なった多く
の先人たちの営みの上に、今の生があるということを表す。
「ダブリリンス」
ダブリンとタブリスとリリンとリリスを重ね、全体でアマリリス
を響かせてみた。アマリリスは筆者が好きな花のひとつ。だから
どーした。
「一家の喩眼」(いちやのゆめ)
原作のあらすじは棟梁フィネガンの通夜であるので、冠婚葬祭に
限って増える「家族」の存在を出してみた。喩眼は、喩えとして
目に浮かぶもの、というニュアンスにしてみたが、やっぱこじつ
け?
「仮唆ね亞話せてい流」(かさねあわせている)
かりそめの示唆として、亞(って差別用語になるのかなぁ?)で
ありながらも一生懸命語っている。そのようにしてこの文章は流
れていく、というイメージ。
「気体の迷錯」
気体のようにつかみどころがなく、希代の名作であり迷作であり、
錯乱しているかのように感じられる、ということ。
「復苦の難産す児」(まったくのなんざんすに)
無論、全くのナンセンスである。苦労を何度となく背負い、本当
に難産な文章である。だが、女性の出産の苦しみは計り知れない
ものがあるので、このように軽々しく使うのは失礼かもしれない。
「兇気の詐詫」(きょうきのさた)
要するに狂気の沙汰。読んでいて騙されているような気にさせる
と申し訳ないので、お詫びします。
「会巣慧富」
様々な人々との交流ができる分野であり、知識の宝庫。そういう
世界であるSFのこと。
「畏れ大飯言葉かり」(おそれおおいことばかり)
居候、3杯目にはそっと出し、ということで、こんな風に言葉を
乱用することは言霊の国にあっては本当に恐れ多い。
「誇大盲掻」
誇大妄想なのだが、めくらめっぽうで掻きまくっている、という
ことで、やや的外れな妄想であるをに匂わせている。ちなみに、
「ここに」からのフレーズは「こ」で頭韻を踏んでみた。
「素も恵洲重歩」(そもえすえふ)
そも、はそもそも、という意味なので「もともと」の連想から
「素」を使ってみた。恵みのある島、そこに歩を重ねる、という
という漢字をSFに当ててみたが、いかがなものだろうか?
「科学が〜思想する」
これはダブレット。一文字ずつ変えていく遊びである。
かがく−かそく−きそく−きそう−きこう−しこう−いこう−
いそう−かそう−しそう
ということで、科学は思想につながるのである。あまり短くても
つまらないので、適当に回り道させてある。文章そのものに特に
意味はない。それらしくつなげているだけ。
「単純に科学技術の述画に擬耽順臥」
(たんじゅんにかがくぎじゅつ の じゅつかくにぎたんじゅんが)
というわけで、の、をはさんでアナグラムになっている。かなり
無理してるが、全体としては、科学技術を述べ記すことばかりに
SFの価値を擬してそれに耽けり、その立場に安住してしまうこ
と、という意味になる。アナグラムはこれで懲りた。
「な過労」(なかろう)
アナグラムが思ったより難しかったため、疲れている。これ以降、
かなりいいかげんな内容になってくる。
「かワインシュタインの狩ってる鴎のかしまし奏で」
「か」の頭韻。アインシュタインにワインを飲ませて酔わせると、
かわいくなったりするわけだ。「狩ってる」は「飼ってる」では
ない。彼は重力と電磁気の統一を求めたから「狩ってる」の方が
いいだろう。「ワインシュタイン」は面白いので訳文から借用し
てみた。
ちなみに頭韻を踏んだ2語は「か」と「こ」。今の世界が過去の
上に成り立っている以上、過去を学びそれを未来へ生かさなくて
はならない、という月並みな意図が無意識のうちに込められてい
るのかも知れないが、実は偶然。
「クックックックォーク!」
当然ながらカモメの鳴き声。これも訳文から借用の上、少し変え
てある。
「あっぷあっぷ〜温めよう」
順番にアップ、トップ、ボトム、チャーム、ダウン、ストレンジ
のクォークの種類6つを入れてみた。
「猫が死んじゃったら〜嗜好実験」
面倒くさいのまとめて。
猫が死ぬというのは、シュレーディンガーの猫のこと。量子力学
の有名なパラドックスである。ボーアは量子力学の生みの親の一
人。ハイゼンベルグは不確定性原理で、観測装置の記述に関する
コペンハーゲン解釈やら、シュレーディンガーを入れて、さらに
もう一度猫のことを出す。これは思考実験であって、実際にこん
な実験はしていない。
「そろそろ読む(取るに)人〜風呂いらん?」
順番にヨブ・トリューニヒト、ヤン、ミッターマイヤー、ロイエ
ンタール、ラインハルト、アンネローゼ、アイゼナッハ、アッテ
ンボロー、ユリアン、キャゼルヌ、カリン、メルカッツ、フロイ
ライン(マリーンドルフ)が入っている。かなり苦しい。ちなみ
に「馬頭」は「ばとう」ではなく「めず」。
「母の語りは同道巡りのえいえんなのthe」(ものがたりは…)
物語の最初は母の胸の中で聴くおはなし。同じ道を何度も何度も
通って、つまり堂々巡りに、永遠に、えんえんと(母の中へ)回
帰し続ける。また、英語では aと並んで最も頻繁に用いられる単
語、定冠詞の theでこの物語は終わり、そして始まる。そこには
ピリオドは打たれず、全ては原初へと回帰し、円環は閉じられる。
ウロボロスの姿をも想起させる構造であり、小説のひとつの究極
形と言えるだろう。原文は「読めない小説」として有名である。
ちなみに「えいえんなのthe」は確か清水義範さんのパロディの
方から借用したと思う。
いいわけ
「フィネガンズ・ウェイク」の柳瀬尚紀氏訳を独自に翻案して、
訳本以上にナンセンス(ちゅーか解読不能)な文章にしてみまし
た。訳本はもっと濃く、日本語を駆使した内容になっていて、ち
ょっと読みづらいけど、楽しい本です。この文章のような怪しげ
な造語ではなく、ちゃんと意味を持った字を当てて、それこそ多
重的な意味を創出しています。ほんと、すごいですね。
本当のところ、こんな文章を作るのは大それたことで、柳瀬さ
んに対しても、また、日本語を使用しているみなさんに対しても
非常な失礼なことであると思います。でも、言葉の可能性という
か、むしろ可塑性って言うのかな。とっても柔らかくて、いくら
でも自分の形に作っていける、ということを試してみたかったの
で、今回は以上のような暴挙に出ました。かなりパクりが入って
ますが、その辺はお許しください。