我が碩学なる図書館・情報学学徒達よ。
今や、図書館・情報学を騙るヲタクの半数が、彼のココロ図書館によってヲタ道に消えた。
このヘタレこそ、我ら図書館・情報学の正義の証である。
決定的萌え要素を持つココロ図書館に、如何ほどの図書館・情報学的要素が存在していようと、その蔵書管理ソフトは明らかに形骸である。
それら軟弱な蔵書管理が、図書館・情報学を満足させることはできないと、私は断言する。
蔵書は、我ら研鑽を重ねた専門職たる図書館・情報学者に管理運営されてはじめて、永久にその価値を持つことができる。
これ以上萌え続けていては、図書館そのものの危機である。
ココロ図書館の無知なる自称司書どもに思い知らせてやらねばならん。
今こそ図書館・情報学は明日の図書館に向かって立たねばならん時であると。
「ココロ図書館」なるマンガ/アニメが世のヲタども、そして一部の図書館関係者の間を席巻している。それはいい。確かに萌えである。だが、その結果彼らは増長し、蔵書管理ソフトという、己の分を弁えない暴挙に出た。これが混乱を生んだ原因である。
「ココロ図書館コミュニケーションライブラリー」と題されたこの蔵書管理ソフトは、しかし、蔵書管理ソフトではない。単なる
に過ぎない。つまり「蔵書管理」に対して、決して過大な期待をしてはいけないのである。その理由は
つまり、起動直後から、家族に見られたくないような画面になる。もちろん絵自体は萌えである。アニメと同じ声で喋ってくれるのも萌えである。だが、蔵書管理にそれらは必要なものだろうか?
否、断じて否である。
萌える絵も声も、殊、蔵書管理という目的に限れば、それは不要なものである。では何故存在するのか。答えは、それが「ココロ図書館」のキャラクターソフトだからである。つまり、この「ココロ図書館」に萌えているヲタどもにしてみれば、こころんの声が、あるとのメガネが、いいなのシスコンこそが必須なのであり、蔵書管理機能は「ココロ図書館」という作品にかこつけたオマケ機能に過ぎないのである。要は、世のヲタどもの萌え中枢さえ刺激できれば、何でも良いのである。
つまり、蔵書管理機能は、それらしいものであれば、それでいいのである。実際、登録した蔵書の冊数によって「CG」「アニメ(ムービー)」「ビジュアルドラマ」「ゲストCG」「おまけアプリ」といったものが、徐々に使用可能になっていく。しかも、単に蔵書を登録しただけでは使用可能にならず、SDキャラの動き回る「待機画面」でクリックし、こころんが「〜が見られる(使える)ようになった」と教えてくれるまで、ユーザーは関知できないのである。
また、このソフトは起動するとタスクトレイに常駐する。つまり、萌えた物体が貴重なリソースを食いつぶすわけである。たかだか萌えソフトの分際で、メモリを10MB以上も消費することに、果たしてユーザーは耐えられるだろうか。
現時点で筆者は「ココロ図書館コミュニケーションライブラリー」という恥ずかしい名前のソフトの全機能を使いこなしたわけではない。よって、ここでは蔵書管理ソフトに必須である本の情報(書誌事項)の入力についてのみ、記述する。
まず本の登録画面で出てくるのは以下の項目である。
「『中小都市における公共図書館の運営』の成立とその時代」
オーラルヒストリー研究会(編). 日本図書館協会, 1998
という本のタイトル(全角26文字)が入力し切れないできないのである。これよりも長いタイトルの本など、世の中にいくらでも存在する。そのような本は蔵書と認めない気だろうか。
次に「作者名」だが、これも「作者名」としている時点で笑止である。本来なら責任表示とすべきところである。というのもの、必ずしも本に「作者」が明記されているとは限らないからである。編者であり監修者であることもある。第一、作者が不明な本の場合はどうすればいいのだろう。この時点で、極めて安易な考えでソフトを作っているとしか思えない。
「作者名」、そして「作者の読み」でも言えるが、姓と名を分けることも行っていない。そのため、日本人は姓+名になるし外国人の場合は名+姓になることが多い。これでは不統一である。
「巻数」などの項目に見られるように、これはあくまでコミックなどを想定した構造であることが分かる。そうでなければ集合書誌単位、或いは上位書誌、下位書誌といった概念で構造化すべきである。コミックを対象としているのは、初期データとして入力済みの蔵書に「ココロ図書館1/2巻」、また発行元のメディアワークスの雑誌が9誌もあることからも伺い知れる。
つまり、健全な読書人の蔵書など、管理する気がないのである。
ただ、雑誌の場合はカレンダー機能と連動して、自動的に発売日のリマインダーを設定してくれるという利点もある。これは発売前の本などにも言え、スケジュール管理と蔵書管理を組み合わせた、PIMに近い機能を提供している。現にMicrosoft社のOutlookへのデータ書き出し機能も備えている。
しかし、それにしても通常の「蔵書」の管理を想定していないのではないか、と思わせる節がある。「ジャンル」についてもデフォルトで文庫、新書、コミック、大版(「大判」のミスだろう)コミック、画集・写真集、書籍、辞書・実用書、その他という構成で、お前はいったい何を管理しているんだとツッコミたくなるような初期値である。これにユーザー定義が64種類追加できるが、デフォルトジャンルの節操の無さはゆゆしき問題である。。
唯一感心したのは、ISBN入力画面で数字を間違えて入れるときちんとエラーが出ることである。もちろん、ISBN自体にエラー防止のためのチェックデジットが入っているので、それを使っているに過ぎないが、変なところで気が利いている。
これは「ココロ図書館」自体についての批判、ひいては日本の図書館と司書(職)制度全般に渡る話となり、それだけで本が1冊書けてしまう分量となるので、特に気になったことだけを簡単に記す。
まず、図書館は決して人里離れた不便な場所に存在するものではない。図書館の存在意義のひとつが利用にある以上、不便なところに図書館は作られない。特に公立図書館はその自治体住民へのサービスが前提である以上、集客の見込める場所に設置されなければならない。ココロ図書館は明らかに私立図書館であるが、維持費はほとんど私費で賄っている(入館料を徴収しているようは様子はない)から収入面はともかく、「本を読んで欲しい」と思いながら、不便な立地に図書館を運営し「客が少ない」とほざくのは、全くのナンセンスである。
そして、最大の問題は「司書」の取り扱いである。図書館法第4条に「図書館に置かれる専門的職員を司書及び司書補と称する」とある。つまり「司書」とは図書館の専門的職員のことである。ただし、図書館法は自治体の設置する公立図書館にのみ適用される法であり、私立図書館であるココロ図書館に適用されることはない。ココロ図書館で職員を「司書」と呼称するのは、図書館法の準用に過ぎない。しかし、図書館には専門的職員だけがいればいいのか。逆に言うと、図書館にいる職員は全員が司書なのか?
否、断じて否である。
確かに、全員が専門的知識を持ち、専門的職務に従事できればそれが望ましい。ココロ図書館は萌え要素も含めて、ある種の理想型には違いない。しかし、「図書館で働く全ての職員が司書である」という誤解の温床ともなるのである。
まして、わずか10歳の小娘(こころん)に「専門的」職員たることを期待出来るのか。長姉でさえ17歳(いいな:老けてるな)に過ぎない。これで専門的な職務が可能なのか。ちなみに、図書館法では司書資格を大学(短大)卒に準じたレベル、司書補を高卒に準じたレベルとしている(必ずしも学歴が必須ではない)。つまり、相応の知識と経験を、司書というものに求めている。果たして、こころんのような「司書」にレファレンスのような高度な職務が可能なのだろうか。
そう、最後の問題がレファレンスである。一般には馴染みのない言葉で、「参考業務」などとも呼ばれるが、要は「図書館資料を用いて利用者の質問に答えること」である。ところが、この「ココロ図書館コミュニケーションライブラリー」オリジナルキャラである「みなな」は、ココロ図書館へ体験実習をしに来るのだが、そのきっかけは、本を読むのが好きな彼女に、学校の先生が「利用者に本を紹介するのがレファレンス、そのレファレンスを行うのが司書」と教えたからだという。
大嘘である。
確かに、レファレンスサービスの回答として本を紹介することも多いが、それだけがレファレンスサービスではない。本の所蔵から、書名や著者名の調査、翻訳書の有無、事項調査(例えば「中国で開発された二足歩行ロボットの名前を知りたい」)、またその図書館の所蔵資料で対応できない場合は、他の機関への照会や紹介も行う(レフェラルサービス)。また図書館によっては、法律、医学、特許など、あらゆる情報についてのアクセス補助を行う。それらを総称してレファレンスサービスと呼ぶのである。
そして、図書館によっては、それを必ずしも「司書」が行うとは限らない。また、「司書」はレファレンスサービスだけを行っているわけでもない。
確かに司書、レファレンスという言葉を登場させたのは、図書館をネタにした作品らしい。これまであまり陽の目を見なかった職やサービスに着目したことは、評価にも値する。しかし、それだけに生半可な理解では誤解を生むだけである。
また、実際の図書館では体験学習の学生(特に中高生)を受け入れることはまずあり得ない。皆無ではないが、休みいっぱいなんてことは絶対あり得ない。なぜなら、図書館はとても忙しいのである。大学の司書課程からの実習生でさえなかなか受け入れてもらえないのに、ロクな知識のない学生を受け入れる余裕は、とても図書館にはない。まあ、我らがココロ図書館はヒマだから大丈夫なんだろうが。