あの人は今

  4,5年前の事になるか、もっともこの頃時間の経つのがますます速く感じられるので、定かでは

ないが、出勤電車の中の事。途中から乗り込んできたがっしりした体格で、こざっぱりした身なり

の工員さんふうの男性が、私の前の席に突然座り込んだ。先客の膝の上にである。おどろいて先
客は立ち上がった。怖い関係の人かと私も動揺した。幸い何事も無く、そこから5つ目の駅で下り
ていった。 
その後も何度か見かけた。必ず座る。そのうち周りの座っている人たちが、彼を座らせまいと押し
のけるようになった。すると奥のほうへ移動して座ろうとする。皆の抵抗に会って、意味不明の唸
り声を上げる。ちょっと見にはわからないのだが、少し精薄気味のようだった。始めは、皆驚き暫ら
くすると、白い目で見られて少しずつ車両を後ろへ移って行った。

 ある時、中年の婦人と一緒に乗って来た。下車するまで入り口近くに立っていた。乗客から駅に
でも苦情があったのだろうか。私も始めは憤慨していた口だが、これから何処へ行くのかな?家
族は大変だな、車内マナーをきちんと身につける機会が無かったのだろうか。などと想像してしま
った。最近見かけないが平穏な日々を送っているだろうか。

 新世紀があけて、ますます世の移り変わりもスピードを加速させていく事だろうと漠然と不安を
おぼえたためか、ふとあの人の事が思い出された。
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