週一度のアルバイトの為電車に乗った。
運良く座る事ができて、文庫本を読んでいてふと目をあげると、赤いバッグが
目に入った。花もようが型抜きされて内側に少しトーンを変えた赤い布が張られている。堅い材質感から、十代の頃持っていたバッグを思い出した。
バケツ型のビニール製の安物だったと思うが、竹のもち手を腕にかけてはずんだ
気持ちで出かけたような。
何処へ行ったっけ。銀座のロードショーで「ひばりの三人娘」を観に行ったのかも
しれない。それとも「ウエストサイドストーリー」だったろうか。
それより前にも赤いカバンを持っていた。
小学校高学年の時、近所の質屋さんで買ってもらった学生カバン。
牛革ならありふれているが、なぜかそれは豚の皮で出来ていた。肌が少々ぶつぶつしていたっけ。
思えば私は身の回りのものでどうしても欲しいと言うものがなかった。
いつも姉達のお下がりで満足していた。おしゃれな姉達のせいで結構しゃれた
ものが下げ渡されていたせいかもしれない。
中学一年生の時、制服のない学校だったので登校の身なりは自由だった。
その日も姉からもらったばかりの赤いYシャツを着て登校した。
担任のギリシャ彫刻のような端麗な顔の先生だったが、怖い顔をして
こんどから赤いシャツは駄目だと注意された。
ちょっと悲しかったが、この先生に嫌な記憶はない。「赤毛のアン」を紹介してくれた先生という懐かしい思いのほうが強い。
この娘さんにはこの赤いバッグでどんな思い出が残るのかな、などと勝手な
思いにふけったひと時だった。
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