花ばっぱ           2003/03/04

短くなった糸を針から抜いて新しい糸に替える時、短くなった糸をすぐには捨てられず暫らくなんと言うことなくためておく癖がある。

遠い昔、我が家の茶の間はちょっと立ち寄った人が茶の間に上がらずとも
たたきに置かれた椅子に掛ければ掘りごたつ兼テーブルに手が伸ばせる造りになっていて、様々な人が立ち寄った。

手ぬぐいをかぶっていつも籠を背負ってくる「花ばっぱ」(お花おばあさん)も其の内の一人だった。
お茶を飲み、話に花を咲かせながら、背中からおろして傍らに置いた籠から糸くずを取り出して短かい糸と糸をつないでいく。私は飽くことなくその作業に見とれていたものだ。
あの糸からどんなものが出来たのだろう。
あの糸で織られた物を一度見てみたかった。今ごろ懐かしく思い出される。

先日花ばっぱと同じ部落に住んでいたと思われる幼友達にたづねてみたが、思い当たらないという。91歳で母が亡くなったのももう10年も前だ。花ばっぱもおそらく母と同年代だったろうから、知らないのも無理もない。

母の仕立てる美しい着物をいつも目にしながら、和裁を習う気が起こらなかった
のは、完成品よりも花ばっぱの指先で繋がれていく糸の先にある見えない何かに惹かれたのも一因かもしれない。

top