巨大なシュークリームのように見える種差海岸の「白岩」、別名「明神岩」とも呼ばれている


「淀の松原」から望む「白岩」


首をもたげたカメのように見える


「象の鼻」と呼ばれる岩


「スフィンクス」と呼ばれる岩島


モアイ像のような岩


人の横顔に見える


種差漁港の島明神
 八戸に来て、国宝「合掌土偶」は見逃せない。
 この日は、是川縄文館を開館時間の9時から見学し、その足でウミネコの繁殖地で知られる蕪島(かぶしま)に向かった。
 種差(たねさし)海岸は、この蕪島から南の大久喜地区までの約12キロに及んでいる。11時に蕪島をスタートし、今日一日で種差を撮り終えたい。平泉から同行しているS氏に車を運転してもらい、遊歩道の入口で降り、出口で拾ってもらう。この作戦でなんとか日暮れまでに走破することができた。

 蕪島はかつて岸から150m程離れた小島だったが、昭和17年、旧海軍により埋め立てられ、現在は陸続きとなっている。輝緑凝灰岩からなる島の周囲は約800m、高さは19mで頂きには弁財天を祀る蕪嶋神社がある。創建は永仁4年(1269)、この地に流された工藤犬房丸(源頼朝の家臣工藤祐経の子)が、故郷の江ノ島を懐かしみ厳島神社の弁財天を勧進したのが始まりと伝えられている。祭神は海の三守護神、市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)、田心姫命(たごりひめのみこと)、湍津姫命(たぎつひめのみこと)である。

 東日本大震災では、島の頂上の蕪嶋神社に大きな被害は見られなかったが、島周辺の観光案内所や観光遊覧船の乗り場、公衆トイレは津波に押し流され、漁船が道路に乗り上げるなど、かなりの被害が出たという。

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 種差海岸は、宮城県の牡鹿半島からはじまる三陸海岸の最北端に位置している。白砂青松の砂浜海岸と奇岩怪石が続く岩石海岸が交錯し、さらに天然芝生地が広がるなど変化に富んだ海岸景観を呈しており、国の名勝に指定されている。
 海岸には、釜の口や象の鼻、白岩(しらいわ)など名前の付けられた岩も多くあるが、他にも見る角度によってさまざまな動物や人物、モノを連想させる実におもしろい形状をした石が無数に点在している。いちどその形が目に付くと、忘れられなくなる形象の奇岩たちである。

 これらの奇岩怪石のなかにあって、深久保漁港付近にある白岩は、まるで海に浮かぶ巨大なシュークリームのよう。丸石を彷彿されるそのシンプルな形状は、不思議な神聖感を漂わせており、息を呑むほどに美しい。
 岩の表面に見える白いものはウミネコや海鵜(ウミウ)の糞だが、なぜかこの岩だけが白くなっている。高さは20mもあり蕪島より高い。この傾斜では人や動物がよじ登ることはできないだろう。一際目立つこの岩に、これといった伝承や信仰がないことが不思議である。
 白岩に「明神岩」という別称があることから、なんらかの信仰があったと思えるが、詳細は定かでない。観光地として発展していくなかで、白岩の信仰は忘れられてしまったのだろうか。

 司馬遼太郎は、『陸奥のみち』のなかで
 「どこかの天体から人がきて地球の美しさを教えてやらねばならないはめになったとき、一番にこの種差海岸に案内してやろうとおもったりした」
 と記している。異星人に向けたこの言葉は、白岩の丸いフォルムに、どことなく宇宙的な匂いを嗅ぎつけたことから出た言葉ではなかったか。と、勝手に想像してしまう。
 白岩は、いつまでも眺めていたい風景の一つ。種差海岸を一日で済ませるのはもったいない。

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2014年5月3日 撮影


2011.3.11の東日本大震災では、
高さ10.7mの津波が押し寄せた。


蕪嶋神社の狛犬の頭に止まるウミネコ。
毎年、早春のころに飛来し、この島で産卵、雛を育て、
8月には南方へと飛び去っていく。

蕪島の代名詞となっているウミネコは、漁場を知らせる弁財天の使いとして信仰されている。
島の名は蕪と呼ばれる野生のアブラナが群生していることにちなむ。


毎年飛来するウミネコの数は、3万から4万羽。1922年に天然記念物に指定された。