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読書感想駄文過去ログ11-20



江戸売声百景

著者 :宮田章司
出版社:岩波書店(岩波アクティブ新書)
発行 :2003年5月7日 初版発行

(27/05/2003)
 「売り声」を芸とする芸人さんによる本。CDシングルが付属しているので、実際の(といっても演じているものだが)「声」が聞こえるようになっているのは嬉しい。
 今でこそネットではクリックひとつで何でも物が買える時代になったが、それでも、こちらから能動的に買いに「行か」なければならない。対して、江戸の物売りは、あちらの方から売りに廻って来ていた。その広告法・宣伝法が「売声」である。居ながらにして様々な物を買えていた当時と、物はいっぱいあるけど、こちらから動かなければ何も買えない今とでは、さてどちらの方が豊かなのだろう。
 江戸の物売りについては、もっと詳しく解説した本があって、そちらも読んだことがあるが、実際に声を聞けるというのは、なかなかマルチメディアである。これが今では「芸」に過ぎないというのは、少々悲しい気もする。今となっては焼き芋かさお竹売りくらいなものだろうか。もっとも、さお竹売りの「2本で1000円」にはかなり裏があるという噂だが…。


シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯

著者 :グールド, W. S. ベアリング
出版社:河出書房新社(河出文庫)
発行 :1987年6月4日 初版発行

(26/05/2003)
 ホームズ研究の第一人者(聖典中の60の事件を時系列順に並べたことで有名)が、ホームズの生涯を再構成した、まさに「奇書」。彼の生涯の中心となっている聖典に描かれている間の時期はいいとして、生まれや晩年、また「空白の3年間」に関しては、ほとんどオリジナルと言って良い。その点で異論も多々あるだろうが、ある種の「贋作」作品と考えれば、よい出来だと思う。
 強いて気になった点を挙げれば、どうもグールド氏はホームズとアイリーン・アドラー嬢をくっつけたがっているようにしか思えない。ふたりの息子がネロ・ウルフだというオチまで付いているし。あと、オマケとして「切り裂きジャック」とホームズたちの対決も描かれていて、これは意外な幕切れを見せる。しかし厳密に考証したものではなく、あくまでホームズの世界で完結させている点が特色であり限界とも言えよう。
 内容についての賛否はともかく、シャーロッキアン必読の一冊であることには変わりない。読み応えもあるし、ひょっとしたらもう絶版かも知れないが、見つけたら即買いすべきものであるかも知れない。


QED 竹取伝説

著者 :高田崇史
出版社:講談社(講談社ノベルス)
発行 :2003年1月10日 初版発行

(25/05/2003)
 良くも悪くも衒学趣味というか、神話、伝説、民話などから広く取材し、独自の解釈を行っている。たぶん、こちらの方が主眼で、事件についての推理はオマケのように思える。
 竹取物語と七夕、タタラ、出雲、鬼、そういったアイテムが一本に結びつくのは、知的快感と言ってもいいが、ネタをどこから仕入れてくるのかは謎だ。ただ、それなりに面白いし、日本神話に関する内容は興味深いので、シリーズを読んでみようとは思う。


R.P.G. ロール・プレイング・ゲーム

著者 :宮部みゆき
出版社:集英社(集英社文庫)
発行 :2001年8月25日 初版発行

(22/05/2003)
 「バーチャル」と「リアル」の家族の問題を「十二人の怒れる男」風の限定された舞台で描いた作品。
 最初から最後まで「バーチャル」と「リアル」が入り混じった設定で、それほど長くない作品ながら、仕掛けは効いている。社会に潜在する病理を描いている点で宮部節は健在だが、分量としてはちょっと物足りなく、読み応えはさほど感じなかった。
 「クロス・ファイア」や「模倣犯」の刑事が顔を合わせるので、ファンサービスや外伝的な意味合いがあるのかも知れない。


実録 満鉄調査部(上/下)

著者 :草柳大蔵
出版社:朝日新聞社(朝日文庫)
発行 :1983年2月20日 初版発行

(21/05/2003)
 東洋最大の、あるいはあの時期だけに限って言えば世界でも有数のシンクタンクであった満鉄調査部をドキュメントした一作。「日本」という国、そしてあの時代にあって、満鉄やその内部組織でありながらも、独立した一調査機関でもあった満鉄調査部が、いかに異彩を放っていたかが如実に描かれている。
 もちろん、利権や満州絡みの政軍の思惑に関連して、満鉄調査部の内外でそれらの影響は強く受けているものの、満鉄調査部は日本、中国、ロシアが入り混じったフロンティア、ユートピア的な存在であった「満州」という異界を象徴したものであったと言える。満鉄に関わった人物を見ると、松岡洋右(外務大臣)、十河信二(国鉄総裁)、大川周明(A級戦犯)、伊藤律(特高のスパイとなった共産党員)など、優秀な人材の宝庫であったことが伺える。
 満鉄調査部は、その初期にあっては政友会と、後には関東軍と距離を置こうと試みていた点で、当時の日本の公的な機関としては極めて異質な存在であった。そのため、と言えるかは不明だが、調査能力にはオーパーツ的な力を秘めており、日本とアメリカの国力差を正確に把握して、日米戦争はじめ太平洋方面での戦争の行方を予想したばかりでなく、独ソ戦についても正確な分析を行い、ほぼ正しい判断を下していた。
 満鉄調査部が、あくまで当時の日本の「異端」であったことが、当時の日本とその行方を正確に示していたのではないだろうか、と思えた。満鉄の人材や組織は、戦後各企業の主に経済系の調査機関や専門図書館に引き継がれた。満州や満鉄は一炊の夢だったとしても、その系譜は今日に至るまで受け継がれているのだろう。


フーコーの振り子(上/下)

著者 :エーコ, ウンベルト
出版社:文芸春秋(文春文庫)
発行 :1999年6月10日 初版発行

(19/05/2003)
 「薔薇の名前」が(比較的)きちんとしたストーリーを軸に構成されているのとは対照的に、この「フーコーの振り子」は時間軸が多重に交錯し、やや難解な作品となっている。「私」が叙述している時点は1984年6月23日なのだが、その時点からの回想、その回想の中でのテクストの引用や、歴史的な叙述、またその語り手の変遷によって、物語が複雑な構造を成している。記号学者でもある著者の本領発揮とも言える一作。
 本筋としては、テンプル騎士団の遺産である「計画」の謎を解いていくのだが、そこにカバラ、薔薇十字、セフィロトの樹、賢者の石、フリーメイソン、イエズス会、サン・ジェルマン伯など、オカルティックキーワードが無数に「関連性」を持って絡んでいく。その意味で、「薔薇の名前」と同じくペダンティックな味わいが大きいが、「薔薇の名前」はどちらかというと純粋なミステリータッチで描かれている一方で、こちらはスリラーないしホラー的な手法に満ちている。つまり、「不可視」のテンプル騎士団の影に怯えながら、歴史に隠された謎を解き明かす(あるいは作り上げる)。
 フーコーの振り子は中世、錬金術の時代から受け継がれ(あるいは捏造され)たテンプル騎士団の遺産を現代に召喚するために残された魔術装置だったのだろう。
 はっきり言って読みにくいし、読むことが苦痛にすら感じられるかも知れないが、諸所に記号学者ならではの言葉遊びやパロディが散りばめられているので、それを探すのも面白いと思う。


マリア様がみてる ロサ・カニーナ

著者 :今野緒雪
出版社:集英社(コバルト文庫)
発行 :1999年12月10日 初版発行

(21/02/2003)
 ごきげんよう。
 蟹名静さまだからロサ・カニーナですか。おめでたいですね。以上。
 ってわけにもいかないんですが、つくづく白薔薇さまも罪な人だなーと。
 マリみての4巻は、生徒会選挙編。薔薇の「つぼみ」が自動的に生徒会役員になるわけではなくてきちんと選挙があるってのは、ちょっと意外というか、まあ民主政治の基本なんですが、それでも本命ガチガチしか来ないところを見ると有名無実化してしまっているような気もします。停滞しきった状況に風穴を開けた静さまの行動は、実は意外に意味が大きかったのかも? まあ平和なお嬢様学校だし、殺伐とした選挙戦なんて似合わないですけどね。
 結局志摩子さんとの関係も明示されないまま、白薔薇さまが美味しいところをさらって行ってしまって欲求不満な感じですが、肝心の祥子さまと祐巳さんの激甘な展開を見たい人は同時収録の「長き夜の」で補完されましょう。つか白薔薇さま出すぎだし。ブーブーはちょっとツボに。
 常識外れのお金持ちの祥子さま宅で一晩お泊りって寸法ですが、意外なお邪魔虫というか天敵というか、ユキチくん貞操の危機というか、そんな感じです。個人的に清子おばさまがいい味出してると思いますが、どういう教育をすればこの母からあの娘が育つのか、相当疑問です。…いや色々な意味で親子かも知れないですが。何にも増して、祐巳の祥子さまに対する心情の変化というか、だんだん独占欲が高まってきた点も見ものですかね。これか割と今後の伏線になってくるのかも?
 関係ないですが、宝船に「長き夜の〜」の回文を書いて枕元に入れて寝るって風習は、すっかり風化してしまったようですが、こういう小説を通じてでも若い世代に残されるってのはいいと思います。ちなみに僕がこの回文を知ったのは落語の「一目上がり」んですけどね。伝統芸能は捨てたもんじゃないです。あと節分に海苔巻きを食べるやつとか。今年はちょっと流行ったかなって感じですけど。
 電気の「茶色」はオレ的流行語大賞。


マリア様がみてる いばらの森

著者 :今野緒雪
出版社:集英社(コバルト文庫)
発行 :1999年05月10日 初版発行

(21/02/2003)
 ごきげんよう。
 某所との「勝手にクロスレビュー企画」第3弾。「マリみて」こと「マリア様がみてる」の第3巻です。この巻と次巻は「セクハラ親父女子高生」こと白薔薇さまの佐藤聖さまがメインとなるお話。
 1巻でさりげなく自分の性癖をバラした白薔薇さまですが、その過去と思われる内容が描かれた小説が話題になる…ってところからスタート。心臓手術を終えて完全復活(というか新生)した由乃さんと祐巳さんが事態の真相を求めて動き出すんですが、この巻から由乃さんの本領発揮といった感じで、暴走しまくりです。あと、何気に祥子さまの着物姿とか。
 実はこっちのお話ってそんなに面白くなくて、同時収録のもう一編の「白き花びら」の方が面白いというか、白薔薇さまの過去そのもののお話で、なかなか泣ける内容なわけですが。というか、小説「いばらの森」よりもこっちの方が数段泣ける話だと思うのは僕だけでしょうか? この話を読むと、何となく志摩子さんとの姉妹関係の謎が分かるような分からないような、そんな話でもあります。
 時に見守り、時に助言し、時に諌め、時に動き、時に慰める。そんな友人の存在があればこそ、白薔薇さまは「今ここにいること」を選んだって感じですね。その友人たちのいる空間と時間が好きだから、何だかんだ言っても薔薇の館に居ついちゃってるんだと思います。そう言えば、この巻で三薔薇さまの名前が明らかになりますね。まだ影が薄いですけど。
 普段は飄々としている白薔薇さまの心中に何が秘められているのかが窺い知れる一作です。


帝都東京・隠された地下網の秘密

著者 :秋庭俊
出版社:洋泉社
発行 :2002年12月10日 初版発行

(20/02/2003)
 非常に興味深い本です。ただツッコミ所もそれなりにあって、鵜呑みにするのはかなり危険な本であることも確かです。最初の印象ほど胡散臭くはないですが、それでも比較的トンデモな香りは漂ってくる感じです。
 この本は要するに、「現在東京を走っている地下鉄の大半が、実は戦前から既に作られていて政府が隠匿してたんじゃねーの?つか今でも秘密の地下鉄とか地下駅とかありそう」ってことを、文献ベースで解き明かしています。最初の疑念は、地図を見ていて、国会議事堂駅付近の丸の内線と千代田線が交差しているかいないかって点で、あとは東西線の大手町と日本橋の間のトンネルの間の壁(線路と線路の間に立ってるやつ)が「銀座線よりも新しいようには見えなかった」からだそーです。んでそのトンネルの壁ってやつは、戦後の技術では不要なのに最新の南北線にまであるそうです。…って、南北線はほとんどシールドで作ってるんですが、何か?
 「鉄」の目から見れば色々アラもあって、1435mmゲージを「広軌」と表記したり(「標準軌」が正しい。わざわざカッコつきで表記しているから分かっているのかな)、千代田線霞ヶ関と有楽町線桜田門を結ぶ連絡線を不自然としたり(有楽町線はS49年に開業したがその時は池袋−銀座一丁目間。車庫のできた和光市へはS62年、工場のある新木場へはS63年に開業。その間有楽町線の車両はどこで整備していたんでしょう? 正解:千代田線の綾瀬車庫)、上下二段式の駅が不自然だとしたり(麹町や町屋は単に直上の道路幅が狭いだけ)、三田線三田駅が不自然だとしたり(日比谷通りから15号に入るためにはカーブさせなきゃいけないし、15号の直下にある浅草線の駅を避けるためには上下二段にする必要があった。まさか三田線がもともとは五反田方面を目指していたことをご存じないとか?)、千代田線建設時には南北線の建設は決まっていなかったのに溜池山王駅が既に作られていたらしい?少なくとも建設史には描かれていたとか(7号線も9号線も同じS37年の都市交通審議会答申6号で取り上げられているし、南北線のルートはこの時点からほとんど変化はない。「建設の決定」はおそらくS59年に取得した南北線の免許のことを言っているんだろうが、将来の建設を見越して空間を空けておいたり準備工事をしておくのは不自然ではない。というか普通。例:上越新幹線新宿駅や大江戸線青山一丁目駅)、なかなかツッコミ所が多いわけでして。「車両の形式の話ばかりする」鉄道マニアとは話が合わなかったと作者さんは書いていますが、ちゃんと話を聞いてれば、不自然とした点のいくつかは合理的に説明がつくことだと思いますが。いや、もちろん合理的に説明がつくからといって、それが最初から合理的に作られた証明ではありませんけどね。
 確かに地下鉄建設史や戦前の資料にも多く当たられていて、「ひょっとしたらそうかも」とも思いましたが、いかんせん物証に乏しくて眉唾の感が拭えません。何より、その「銀座線より新しいようには見えない」東西線の壁とらやの写真でも載せているかなーと期待したんですけどね。もちろん、作者さんの観察眼や想像力、洞察力、取材力には素晴らしいものがあると思いますし、話の種としては興味深い点が多々あります。防諜のための地図の「改描」とかGHQの軍用地図とか、地下鉄や駅の不自然な点とか、それぞれネタとしては面白いんですが、せっかくの興味深い各要素が、読んでいてもつながりが今ひとつはっきりしないというか、おぼろげな線は見えても、いつまで経っても実線にならない、隔靴掻痒の感が強いです。あと国立公文書館や水道局の職員の対応とか、なんかいかにもな感じがして怪しさ炸裂なんですが。
 最初の印象ほどトンデモな本ではありませんでしたが、それでも胸を張ってノンフィクション、と言い切れるほど実証的な本ではないと思います。あえて言わせて頂ければ、陰謀史観というよりは妄想の産物といった感じでしょうかね。まあ、そこそこ売れているようですし、それなりに面白いのは確かですが、鵜呑みにするには危険ですね。結構ウソというか事実誤認というか不勉強な部分も目立つような気がしますので。
 もう少し実証的データがそろえば、説得力のある魅力的なノンフィクションになると思いますよ。できれば増補改訂版を期待します。


マリア様がみてる 黄薔薇革命

著者 :今野緒雪
出版社:集英社(コバルト文庫)
発行 :1999年02月10日 初版発行

(09/02/2003)
 ごきげんよう。
 某所との「勝手にクロスレビュー」企画第2弾(謎
 究極の癒し系少女小説の第2巻。前回が紅薔薇メインだったのに対して、今回は黄薔薇メイン。まあすぐに読み終わってしまって、相変わらず内容無いんですが、信頼しているからできること、信頼しているからできないことってのがあるのかな〜って感じで。近くに居たら気付かないこと。それを気付かせるために自分から離れることも、時には大事なんでしょうかね。雨降って地固まるっていうと月並みですが。
 あと、人は見かけで判断しちゃいけないってことでしょうか。正直言って、由乃さんは猫被りすぎだと思います。ネタバレですが、次の巻以降、由乃さんの暴走具合がだんだん増していくような。
 それにしても、薔薇さま方やつぼみさま方はちょっと大人びているというか、きっと祐巳さんだけが子供なんでしょうけど、高校生らしくないですね。でも1年生の目から見れば2年生も3年生もすごい大人に見えるから、そんなもんでしょうか。だけど3年生で紅薔薇の祐巳って想像できないなぁ。
 オチは相変わらず祥子さまと祐巳さんの甘甘な展開ですが。


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