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読書感想駄文


ということで、独りよがりな感想文です。最近読んだのに限らず、再読や印象に残った本なども随時掲載という方向で。



言の葉の樹

編者 :ル・グィン, アーシュラ K.
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
発行 :2002年6月20日 初版発行

(03/06/2003)
 「ゲド戦記」のル・グィンの「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズの一作、らしい。徹底した旧文化の破壊によって失われた本や語りを探していく物語。
 中国の文革や、人類学・民俗学的なフィールドワークを色濃く感じさせながら、文化と本、語りについて考えさせられる一作。原題は"The Telling"で、邦題の「言の葉の樹」はやや大げさな気もするが、言葉としては良い。
 結局、異文化コミュニケーションという部分へ帰着してしまいそうなのだが、そういう読みでいいのだろうか…?


米内光政

編者 :阿川弘之
出版社:新潮社(新潮文庫)
発行 :1982年5月25日 初版発行

(02/06/2003)
 終戦時の海軍大臣で「帝国海軍の葬式を出した」と評される人物の伝記。けっこうウソもあるらしいのだが、日本海軍にあって極めて海軍らしい人物と言える。それが実像かそうでないかはともかくとして、最後まで何とかして戦争を止めようと心を砕いた人物であったことは確かであろうと思う。
 戦うということ、そして軍備の意味を理解していた、当時としては稀有な人物として描かれている。これから先、キナ臭い臭いが漂ってくるかも知れない。歴史を学び、理性を保って時代を見据える必要があるだろう。その意味で、彼の姿はひとつの道標となるかも知れない。
 時代の中で異端でありながら組織の首座を任された点で、徳川慶喜と良く似たものがある。どちらも、自らの手で任されたものに幕を引いた。その後は歴史の表に一切出ず、淡々と一生を終えた所も、類似点が認められる。もっとも、それ以上に異なる点も多いのだが。
 ひとつの時代の終端には、異端・異才ともいえる人物が必要なのだろうか。


量子の宇宙のアリス

編者 :シェインリー, ウィリアム
出版社:徳間書店
発行 :2003年2月28日 初版発行

(28/05/2003)
 量子力学なるものを、体系的に勉強したというか教わったのは、大学生の時、「哲学」の先生の講義においてであった。つまり、量子力学と存在論、さらに言うと、量子力学によって記述される世界とは、一体どのようなものであるかを考える講義であった。
 この本も、究極的には認識とか存在とかそういうところへ繋がってくるのだが、「不思議の国」のアリスを主人公に、まさに不思議の国である量子力学の世界へと誘ってくれる。本文には数式はひとつも出てこないし、特に予備知識は必要ないと思われる。ナンセンスを理解できるだけの柔軟な頭で、書いてあることを素直に読めば、量子力学の世界がいかに不思議なものかが分かる。巻末には用語解説なども付されており、その先へのステップアップへも繋がる作りになっている。
 量子力学と哲学が深く結びつくように、物理学を始めとする理系学問と、文系学問を融合させるキーワードが量子力学ではないかと常々思っている。「人間にとって〜はどんな意味を持つのか」ということを、量子力学は考えさせてくれる。
 その点で、この本は量子の世界への入り口としては、すごくよく出来た本だと思う。


ドンレミイの雨

著者 :池波正太郎
出版社:新潮社(新潮文庫)
発行 :1989年6月25日 初版発行

(27/05/2003)
 お恥ずかしい話ながら、池波正太郎の小説を読んだことは、ほとんどない。これも紀行文が主で、小説はほんの付け足しだったのだが、それでも彼らしい味はなんとなく分かるような作品だと思う。
 特に、食べ物に関しては、それほど詳しく描写されていないのに。すごく美味しそうに感じるのは、池波作品の真骨頂だろう。関係ないけど、これを読んで、無性にフランスへ行きたくなってしまった。


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