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天翔ける騎士 第8章「月へ集う者たち、」

Cパート



"light of silence" C-Part


 ラグランジュ同盟軍、地球圏派遣艦隊たるアークライト艦隊は、
リー・トゥアン指揮のテラ討伐先遣艦隊を編入し、11月4日にS
S11を発した。一路月面を目指しての航行に入り、到着は7日を
予定していた。それに合わせて、艦隊では月面攻撃の準備が進めら
れていた。
 また、出発に先立ち、人員の補充に伴って、乗組員の部屋割りに
若干の変更が生じていた。それを聞いた時、変更される側の少年と
少女は、戸惑いはしたもののすぐにそれを受け入れた。
「駄々をこねると思っていたが…」
 艦隊司令のアークライトは首を傾げた。
「ふたりとも、それほど子供ではなかったということでは?」
 アークライトの傍らではなく、司令席の後ろの会議用テーブルで
タリスが応える。月面攻略に関する様々な雑務を、アークライトの
背後で手際よく処理していく。
 月面の到着を翌日に控えた11月6日。処理しなければならない
案件は、政軍双方にわたり膨大な量に達していた。
「確か14歳だったか、その歳の男女が同じ部屋で暮らす方が不自
然だろう」
「…そういうものかな」
 腕を組む。
「お前はどうだったんだ?」
「14歳というと…クラスの娘に手ひどく振られたことがあったな」
「それは初耳だ。リー君は知っているのか?」
「あいつが私のことで知らないことは、無いんじゃないかな」
 頬杖を付きながら答えるが、はっと居住まいを正す。
「そういうことではなく、お互いが支えになっているようだから、
引き離されるのを嫌がるのではと思ったのだが」
「艦内にいる以上、毎日顔は会わせるだろう。それに…」
 出の悪くなったペンを振る。
「離れて強まる絆もあると、俺は思うがね、アークライト」
「…」
 司令官はそれに答えず、じっと正面のスクリーンを見つめていた。
「ところでタリス先輩」
 しばしの間を置いて、話しかける。
「なんだ?」
「それは私への当てつけですか?」
 山と積まれた書類を端から片付けるタリスを見やった。
 話しながらも、一時も手を休めてはいない。
「別に」
 ぴっ。
 サインか何かを書いたような音に一拍空けて、次の書類を山から
取る。
「仕事を与えてくれて感謝している。誰かのように暇を持て余さな
いで済むからな」
 何かの精密機械のように、リズムを乱すことなく書類を書いてい
く。
「…少し、出てきます」
「夕飯までには帰って来いよ」
 追い打ちを掛けるような、タリスの言葉に、艦橋を逃げるように
出ていった。

「へー、グーランさんってたくさん本読むんですね」
 同室となったパイロットの蔵書を見て、少年、セアは感嘆の声を
上げた。ようやく片づいた室内を見回してのことである。
「まだ全部読んだわけじゃないよ。親父が遺してくれたものさ」
 グーランは笑って手を振る。赤毛でやや縮れ気味の髪を持つ、長
身の青年である。
「父さんも本が好きで、僕もよく借りて読んでました」
「へー。セアの親父さんもね。どんな本読んでたんだ?」
「えっと、ベルヌって知ってます?」
「…ここからここまでベルヌだぞ」
 グーランが立ち上がって本棚を指さした。
「え?」
 思わずセアが呆気にとられる。
「すごい…これ、ひょっとしてベルヌの小説全部ですか?」
「さあ。俺はよく知らないけど、親父が集めたんだから、全部じゃ
ないのかな?」
「すごいんですね、グーランさんのお父さんって」
「まあな…」
「どちらに居るんですか?」
「…多分、スタフォード市の下に埋まってるよ。弟と一緒にね」
「あ…」
「気にするなって。母親は生きているし、順調に行けば、もうすぐ
墓参りもできるし」
「…そうですよね」
 ふと思い出す。
「おじさんとおばさん、元気かな…」
「え?」
「僕は両親がちょっと行方不明で、おじさんの家で暮らしてたんで
すよ。でも、どさくさに紛れてこの船に乗っちゃって…」
「そういや、セア、お前、給料貰ってるか?」
「え?」
 ぽかんと口を開ける。
「一応正式のパイロットになってるんだし、給料が出るはずなんだ
けど…知らないか?」
「さ、さぁ…」
「そりゃちょっとマズいだろう。俺聞いてくるわ」
「あ、グーランさん…」
 止める間もなく、出ていってしまった。なんとなく、居心地が悪
い。
「どうしよう…」
 本棚を前に考えこんでいると、ノックの音がした。
「どうぞー」
 上の空で応えて、そのまま腕を組んだ。
 何かいい香りがして、ふわっと傍らに風が舞った。
「セア」
 耳元で呼ばれて、首をひねると、眼前に綺麗な少女の顔があった。
「わっ」
 びっくりして飛び退く。
「シャルか…脅かさないでよ」
「…人の顔見て驚くことないでしょ」
 拗ねたように頬を膨らませるが、すぐにもとの表情に戻る。
「で、似合う?」
「へ?」
「似合う?」
「…えーと」
「似合うかって聞いているの!」
 赤くなっているセアに向かって、こちらも赤くなって叫ぶ。
「えと、うん、似合ってるよ」
 シャルは嬉しそうに立ち上がって、その場でくるりと一回転した。
白く上品なブラウスに、ベージュのロングスカート。ブラウスの上
にはピンクの薄手のカーディガンを羽織っている。全体に淡色系で
まとめており、シャル自身の白い肌や宵空色の髪の毛とも、マッチ
ングは完璧であった。
「…どうしたの、その服?」
 初めて彼女に会った時は、デニムのシャツに動きやすそうなショ
ートパンツといういでたちで、女性というよりは、女の子そのもの
といった印象であった。アルマリックに乗ってからは、着古した作
業着や色気のないTシャツとジーパンなどを着用していたため、今
の女の子女の子した格好とのギャップが大きい。
「リニスさんが貸してくれたの」
 セアはパイロットのグーランと同室になったが、シャルも同じく
パイロットのリニスと同室になっていた。
「ほら、リニスさんってわたしと身長変わらないし」
「そういえばそうだね」
「ちょっと胸がきついんだけど…」
「え?」
「ううん、何でもない。セアは何してたの?」
 すとん、とセアの傍らに膝を落とした。
「どうしようかなーって考えてたんだけど…」
「なにそれ?」
 笑って、ふと視線を転じる。
「へー、セアって本読むの好きなんだ」
「好きは好きだけど、これはグーランさんのだよ」
 本棚を見やって答える。
「ね、わたしも読んでいいかな」
「別にいいと思うけど…そうだ、シャル、お茶飲む?」
「うん…セアが淹れてくれるの?」
「あんまり上手じゃないけどね」
 立ち上がって、部屋の隅にあったポットと茶道具を引っ張ってく
る。
「わたし、お茶って好きだよ」
 セアの手つきを見つめながら、シャルが言う。
「おじいさまがお茶好きでね、よくわたしに淹れ方教えてくれたの」
「へえ」
 相づちを打ちながら、視線はティーポットから離れない。
「結局覚えられなかったけど、おじいさまにつき合って飲んで…」
「…どうしたの?」
 突然言いよどんだシャルに、セアが視線を向けた。
「あの、えーと、お菓子くらいなら、ちょっと作れるかなーって…」
 目を逸らしつつ、答える。
「ふーん、シャルも作れるんだ。カーツもね、昔よく作ってくれた
んだよ。アップルパイとか」
「そ、そう」
「美味しかったなー、カーツのアップルパイ」
 ギロ。
 そんな音が聞こえたような気がして、シャルの方を慌てて見る。
しかし、彼女はそっぽを向いていた。
「あの、シャル…」
「なに?」
 その声に、ちょっと押される。
「お茶、飲むでしょ?」
 ティーカップを差し出された。
「あ、ありがとう…」
 なるべく視線を合わせないように、受け取って一口すする。
「おいしい…」
「そう? ありがとう」
 ニコニコと応じるセアから、視線を泳がせた。
「…そういえば」
 こちらも一口すすってセアが切り出す。
「初めてだよね、シャルが家族の話をしたのって」
「あ…」
 途端に彼女の表情が暗くなった。
「ご、ごめん、別に悪気があって言ったわけじゃなくて…」
「ううん、いいの。こっちこそごめんね」
 少し気まずい沈黙が流れた。
「ね、セア」
「なに?」
「本読んでいいかな」
「いいんじゃないかな。僕も読もうと思ってたし」
「うん。…どれにしよう」
 本を取ろうとしたふたりの指が重なる。
「「ご、ごめん」」
 慌てて引っ込める。
「いいよ、シャルが読んで」
「いいの?」
「うん、僕は後でいいから」
「わたし、読むの遅いんだけど、いいかな?」
「…いいよ。気にしないでゆっくり読んでいいから」
「うん、ありがとう、セア」
 そう言って、シャルは『月世界旅行』を取り出して、お茶を傍ら
に読み始めた。セアも別の本を取りだして、読み始める。
 静かな時間が流れ出した。時折、
「セア、お茶のおかわり、いい?」
「うん、ちょっと待って…はい」
「ありがと」
 などという会話を挟みながら、ゆっくりと時が過ぎていった。
「…何やってんだ、お前ら」
 小1時間ほどして部屋に戻ってきたグーランが見たものは、テー
ブルに向かい合って真剣に本を読んでいる少年と少女の図であった。
「ま、いいけど、ちょうどよかった。お前たちの給料の話だよ」

「はい、どうぞ、アークライトさん」
「ん、ありがとう」
 キョーコがアークライトの元へお茶とお菓子を運んできた。
「珍しいですね、アークライトさんがひとりで食堂に来るなんて」
「そうかな?」
「いつもタリスさんやリーさんが一緒なのに」
「…それはそうと、どうしたんだ、その格好」
 咳払いをして、話題を変えた。
「あ、これですか?」
 そう言って、くるっと回る。
「やっと制服が届いたんですよ。似合います?」
「似合うことは似合うが…ずいぶん、その、何というか、趣味的だな」
「そうですか?」
 そう言うキョーコが着ているものは、紺地に白のエプロンドレス
−いわゆるメイド服によく似た感じの服であった。
「こういうかわいい服、好きなんですよ」
 ウェーブのかかった肩までの髪が揺れる。ご丁寧なことに、カチ
ューシャまでしていた。もちろん、足は白いストッキングである。
「リニスと気が合いそうだな」
「あ、よく分かりますね」
 その答えに、とりあえず頭を抱えた。
「…まあ、誰が迷惑するわけでもなし、別に構わないんだが」
 ぶつぶつと、シフォンケーキにフォークを刺した。
「グーランあたりが変な気を起こさなきゃいいんだが−」
「あ、いたいた」
 ケーキを口に入れた時、食堂のドアが開いて数人が入ってきた。
「提督、探しましたよ」
「グーランにセアにシャル…どうしたんだ?」
 どやどやと、アークライトの向かい側に座った。
「とりあえずキョーコちゃん、お茶とお菓子お願いね」
「はいはい」
 いつもの笑みを浮かべて、キョーコが応じる。
「あ、わたしお菓子だけでいいです」
「僕も」
「どうして?」
「さっき、部屋でたくさん飲んじゃったから…」
「僕が調子に乗ってたくさん淹れちゃったから…」
 済まなそうにしているふたりを見て、グーランが顔に手を当てた。
「セア、お前もっと他にやることもあるだろうに…」
「あのな…ところで、私を捜していたと言っていたが、何の用で?」
 ケーキをフォークでつつき回して、アークライトが尋ねた。
 崩れるケーキにキョーコが何か言いたげな視線を向けたが、何も
言わずに去った。
「経理に聞いたら、提督に話を通してくれって」
「だから、何だ?」
「こいつらの給料の件です」
 アークライトの手が止まった。
「給料?」
 グーランが大きく頷く。
「はい。こいつら、正式のパイロットでしょう? だったら給料貰
ってもいいはずなのに、聞いたら知らないって言うし、どうなって
いるのかな、と」
 アークライトはゆっくりとお茶を啜った。
「…その件はタリスに一任−」
 言いかけて、口をつぐむ。
「わかった。こちらで処理しておく。しかし−」
 言い淀んだ。
「セア、保護者への連絡、どうする?」
「は?」
 間の抜けた声を出す。お茶とケーキを運んできたキョーコにくす
くす笑われてしまった。
「未成年だからな。法律上、保護者の承認が必要になる。確かSS
12にいると聞いたが、ずっと連絡してないんだろう?」
 セアは虚を突かれた表情を浮かべた。
「そういえば…。でも、今さら連絡しても−」
「だめだよ、セア。きちんと連絡しなきゃ」
 本気で咎める口調で、シャルが言う。
「そうだね−。でも…」
 視線を落として、目の前に置かれたケーキを見る。
「まあ、今は取り込んでるからな。月に着いて、落ち着いてからで
も遅くはないだろう」
 アークライトが助け船を出した。
「−ええ、そうします」
 無理に浮かべたような笑みで、それに応じた。そこで、ふと横を
向く。
「そう言えば、シャルも連絡しなくちゃいけないんじゃないの?」
「え?」
「確か、おじいさんがいるんだよね?」
「そ、そうね−わたしも月に着いてから、連絡取ってみるね」
 そのやり取りに、アークライトの眼光がわずかに鋭くなったのを、
グーランは見逃さなかった。
「んじゃ、給料の件はこれで落着ってことですね?」
 明るい声で、グーランが言う。
「そうだな。−セア、シャル、このケーキを食べてみなさい、美味
しいぞ」
「本当ですか? いただきます」
「いただきます」
 律儀に手を合わせるシャルと、それに倣って慌てて手を合わせる
セア。
「おいしい!」
 幸せそうな顔で、シャルが声を上げた。
「うん…でも−」
「どうしたの? 口に合わないかしら?」
 にこにこと、波打つ髪を揺らしてキョーコが問う。たまにこの笑
顔が恐ろしく感じる、とセアは思ったが顔には出さなかった。
「ううん、すごく美味しいんですけど、この味って」
 首をひねった。
「もしかして、カーツが作ったんですか?」
「すごい、セアくん、正解!」
 きゃぁ、と手を打つキョーコ。それが聞こえたのか、厨房からひ
ょこっと、ショートカットの女性が顔を出した。
「セア、あんた、よく覚えてるわね、わたしの味なんて」
 ひよこが描かれたエプロンで手を拭きながら、厨房から出てきた。
「忘れるわけないよ、ずっと食べてたんだし」
 ズキッと、シャルの胸に痛みが走る。なんでだろう、と訝しむ。
「カーツ、ケーキ作ったんだって?」
 どこから聞きつけたのか、食堂にリニスが入ってきた。
 エフリート・リニス。シャルと同室のパイロットであり、彼女に
服を貸した人物でもある。自称20代前半という年齢の割にかなり
小柄で、背丈はシャルとあまり変わりない。背の半ばまである淡い
色の髪と、やや少女趣味の服装からは想像もできないが、戦場では
猛々しく、また酒席でも剛の者という評である。
「あれ、キーツさんも?」
 リニスに腕を引っ張られるようにして入ってきた青年を見て、セ
アが声を上げる。彼、サーレイス・キーツはアルマリック戦闘機隊
の隊長である。リニスやグーランらを束ね、アルマリックはおろか、
アークライト艦隊不敗の因の一端が彼にあると言っても過言ではあ
るまい。
 中肉中背で、錆びかけた銅の色の瞳を持っている。それ以外にこ
れといった特徴はないが、実は「地球圏最強のパイロット」とは彼
のことであった。艦隊設立以前にいた同盟の飛行訓練所でも、次席
以下を大きく引き離したという実績を持っており、彼の残した成績
は、未だに破られていないという。
「あまり甘いものは好きじゃないんだけど…」
 リニスに有無を言わされずに連れてこられたらしい。
 期せずして、セアとシャルがよく知る人間達が集まったお茶会に
なってしまった。みな口々のカーツのケーキを褒める中で、カーツ
はひとり浮かない顔の少女を見つける。
 笑声や諧謔の飛び交う中を、そっと少女の横に移動して、耳打ち
した。
「今度、お菓子作ってみれば?」
「え?」
 カーツの、ともすれば男の子のようにも見える顔に笑顔が浮かん
でいる。
「シャルもお菓子作れるんだって、セアが言ってたわ」
「でも、わたし−」
 フォークの先に突き刺さったケーキを見つめる。
「カーツさんみたいに、上手じゃないし、きっと美味しくないし…」
「誰だって初めはそうよ。だんだん上手になるんだから」
 にこにこと、カーツが肩を叩く。
「そうそう。それにシャルちゃんには最高の味見役がいるじゃない」
 いつのまにか、キョーコがカーツの反対側に陣取っている。
「でも、セアには…」
「そりゃ、最高の出来のものを食べて欲しいっていう気持ちも分か
るけどね−」
 ぐっとシャルに顔を寄せる。
「あの子単純だから、自分のために作ってくれたってだけで、すご
く喜ぶわよ?」
「そう、でしょうか…」
「シャルちゃんが、セアくんのためだけに作る。セアくんが自分の
ためだけに作ってくれたって思う。それが大切なんじゃないかな」
 いつものにこにこ顔だが、それが優しげに見える。
「…あの、カーツさん」
「なに?」
 俯きながら、言う。宵空色の髪から覗く首筋が桜色に染まってい
た。
「あの、わたし、クッキーしか作れないんです。だから−」
「うん。あたしもたくさんは知らないけど、教えられるものなら、
何でも」
「わたしにも手伝えることがあったら、何でも言ってね、シャルち
ゃん」
「カーツさん、キョーコさんも、ありがとうございます」
 なにやらよからぬ相談−セアにはそう見えた−をしている少女3
人を眺めて、セアは首を傾げる。
「何なんでしょうね?」
 傍らのリニスがくすっと笑って答えた。
「ウィロームくん、あなた幸せ者よ?」
 セアが疑問の視線を向けるより早く、リニスは反対側で行われて
いた男性陣の酒談義に入っていった。
「本当は紅茶にブランデーを入れたいんですけどね」
 と、早速無類の酒好きを発揮するリニス。
「ブランデーを積んでいる戦艦は、そうないだろう」
 キーツが腕を組んで応じる。
「提督がこの間飲んでらしたような…」
 キョーコが頬に手を当てて首をひねった。
 とたんにアークライトがむせる。
「…あれは私物だ。私物なら別に禁じていないぞ」
 皆の視線が集中したのを遮るように手を振る。
「…提督」
 リニスがとろんとした目でアークライトにしだれかかった。
「今度、ご一緒しません?」
「リニス先輩、お酒が飲みたいだけなんでしょう?」
 呆れたようにカーツが突っ込む。
「正解」
 小悪魔のように笑って、アークライトから離れる。セアとシャル
は少し赤面していた。
「間違っても彼女のような酒乱にはなるなよ」
 グーランがセアとシャルに笑いながら諭す。一方で、ネタにされ
たリニスは可愛らしく頬をふくらましたりしたが、それを受けて、
アークライトがふと思い出したように言う。
「いつだったか、出撃の時にシャンパンを用意しておけとか言って
いたな。あの時はどうしたんだ? 本当に料理用のワインを飲んだ
のか?」
 アークライトのケーキをつつく手を気にしながら、リニスがにっ
こりと笑う。
「まさか。医務室の消毒用アルコールで済ませました」
 一同が爆笑に包まれたところで、ある意味タイミングよく艦内に
警報が響いた。
「前方に敵艦隊を発見、接触まであと80!」


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